2023-09-01

ひとりでいられなくて

高校卒業後、ようやく親と離れることができた後に、自身と向き合うことになる。
その時には、自分の中に人格が何人もいた。
私たちと出会った時は7人。話し方も文字も食べ方も全く違う。ころころと変わる人格と、それとは別に、パニックになり解離してしまうとき、その時々で彼女の気持ちや言葉、解釈も違う。言葉が通じない。
いろんな年齢、性格の彼女。その時々で、私たちも接し方や伝え方を変える。

人格が変わるきっかけは様々。
ピンク色のバッグやコートを見たり、身に付けたりすることもその一つだった。
「行かなきゃ!」と急にスイッチが入る。男の人が好みそうなかわいい格好とメイクをし、家を出て行こうとする。
「食べる物、お金をどうにかしないと」と、それだけを遂行するために必死で、テキパキと動く。
こちらが心配しても「大丈夫です!」と強気で平然な顔をして言い張る。本人より歳上のお姉さんだ。
メイクをしていない寝巻きのときは、小さい子どもになることも多い。遊び食べをし、飴やティッシュをぶち撒ける。
夜中になると、玄関のドアノブをガチャガチャ開け、「遊びに行きたい!」「遊びに行こう!」と飛び出る。
一生懸命子どもの仕事をし、“こうしていたかったよね”という行動をとった。

親ともできる限り距離を置いた。
兄妹のこともどうにかしたくて必死だったけど、親と離れるとともに、兄妹の距離も少しずつ出来ていった。
しんどかった”家族”だったのに、”家族”から離れたら、もっと寂しくなった。”家族”がいても寂しかったのに。
”家族”がいない気持ちになった。だから”家族”がほしいと思った。

最初は、”家族”という名前だけでもよかったんだと思う。
でもほしかったのは、”家族”という名前よりも、
その中身だった。

帰れる場所

頼れる場所

安心できる場所

自分を受け入れてくれる場所

認めてくれる場所

支えてくれる存在

変わらずそこに居てくれる存在

それは、今でも求め続けているんだと思う。
私たちと過ごしてからも、男の人と会ってしまったり、突発的な行動に出て危うい状況になってしまったことは何度もあった。
その場で必要とされるために、100点満点の評価をもらうために、まっすぐ過ぎるくらいに一生懸命突っ走ってきた。
その為には手段を選ばないほどに。

“自分を見てほしい”
“必要とされたい”

でもそこには、本当の自分とのギャップもあったり、いつの間にかペースを崩してしまっていたり、限界がきて爆発してしまう。
自分を演じきれなくなったり、体調を崩したりして、自傷行為をしたり突発的な行動に出てしまった後、それを自分で対処しきれなくなり、人間関係がいつもぶつ切りになっていた。
私たちとの関係も、ぶつ切りになってしまいそうな時は何度もあった。

0か100。

「今でもすごく頑張ってこの自分なんだよ。
それを必死に必死に抑えて抑えて、抑えてるんだよ。また繰り返しだね、また0になっちゃったね。」

「失敗しても0には戻らないよ、またここから始めていければいいだけ。
これまでやってきたことは、自分の中に積み重なっているよ。」

そう伝え続けていた。
そして、関係がぶつ切りにならないことを目標に、いい形で区切れるようにして自分の中で成功体験にして、それを積み重ねていこうねと。
「また繰り返しになっちゃうよ」と、引き止めることはあるけど、
あの時と同じではないよ。
ちゃんとここにある心もあって、通じる言葉もある。
ぶつ切りにならない関係を、ちゃんと作ってきたあなたは、随分違うよと言いたい。

あの頃、守られるべきだった感情はたくさんあったよねと思う。
守られたかった感情は、ずっと自分の中にあるのに、それなのに年々時間は過ぎていくよね。
大人になるよ。
許せない自分のこだわりが、他人との繋がりの邪魔をするときもあるけど、
これまでどれだけあなたが人を許してきたか、人の為にしてきたこと、その優しさも知っている。
どれだけ頑張ってきたか、どれだけ頑張っているか、
伝わっているよ。

もうそんなに飾りは必要ないと思うよ。

そのままの自分でちゃんと守られていて、自分のことも他人のことも守っていきたいね。

取材・文 = 竹下奈都子 / Natsuko Takeshita
NPO法人BONDプロジェクト事務局長。横浜国立大学経営学部中退。在学時に、NPO法人BONDプロジェクト設立前のVOICESマガジンの活動に出会い、若年女性の居場所や支援活動の必要性を感じ、2009年NPO設立時より活動に携わる。業務全般を行っている。
※写真はイメージです。本文の内容とは関係ありません。 photo is an image. They are not related to the content of the text.

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