2025-02-01

私はお父さんを知らない

モカが幼い頃から、母親は夜になると家を出て行ってしまい、
帰って来なかったり、彼氏を家に連れて来て、性行為をするさまを見せられることがあった。
母親から叩かれたり、殴られたり、時に激しく口喧嘩をした時には、刃物をむけられたこともあった。
イライラしている時には、
「モカがいるからつらい、大変なんだ」と、
母親から言われることが多かった。
自分に対して普段から無関心に接する母親は、話を聞いてほしいと言っても無視したり、精神的に余裕がないせいか、して欲しいことをお願いしても何もしてくれなかった。

中学卒業までに死ねなかったら、生きていくためにも高校へ行きたいと思っていた。でも、母親からは「高校への進学もお金がかかるなら、やめろ」と言われて、行きたかった高校には行けず、かろうじて入学金が4万五千円、1年間の学費が2万円の通信の高校へ通うことにした。

「本当は夢があった。
中学生の頃からの夢があって、
美容の専門学校に行きたいと思っていた。
あと、父親に会ってみたい。
どんな人なのかを母親から聞いたことがないし、結婚もせずに、子供を産ませてる人だと思うと、正直、怖いけれど。
でも、会えたら何話そう。
『娘の私のことどう思ってるの?』って聞きたい。
私のことなんて全然、興味無いのかもしれないけれど。
なんか私だけ父親から置いていかれたって思うから。
なんでなんだろうって、考えちゃうな。
一応、血は繋がってるんだし、家族について知りたい。
『私より幸せに暮らしてるのかな?』って、会ったことのない姉と兄についてふと考える時もある。
想像しかできないけど、妬ましさ羨ましさがあるんだと思う。
幸せってなんだろう。
ちゃんとご飯食べられたり、学校に行けて、就職して、子供として親が向き合ってくれて、子供らしい子供時代を送れることかな。
私は送れなかったから。
母親からお金がない、余裕がないって言われて、
したいことを何もしてもらえなかったから」

今を変えたい19歳のモカには夢を見ることや、叶えるためのサポートが必要だ。幼い頃から夢見ることを諦めてきたモカ。
そのことを知った私がモカに声をかけられる言葉はあるのか。
わかっていたことは「大丈夫」じゃないってこと。

大丈夫じゃなくていいんだよ。
それは突然の反応だと思うから。
自分が望んだことではないのに、めちゃくちゃな時、大丈夫だなんて言い聞かせても、苦しいだけだよね。
私に話してくれたように、自分の本当の気持ちをこれからも表現してほしい。
未来について考えた時、
考えていたことより、考えもしないようなことが起きる。

だから先へ進むしかない。
先へ先へ…
先へ先へ…

ペラペラな言葉に聞こえちゃうかもしれないけれど、
今度また会えるならモカの笑ってる顔が見たい。

取材・文 = 橘 ジュン/ Jun Tachibana
ルポライター。18歳の頃からアウトロー的な生き方をする少女たちの取材を行う。街中で出会った女の子たちのリアルな声を聞いて伝え、現在も10代20代の生きづらさを抱える女の子たちを支えるために活動を続けている。
NPO法人BONDプロジェクト代表。
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