2025-01-01

君の声を待つ夜

“「クリスマスは何か予定あるの?私はぼっちやねん」”

2025.1/1 水野ちひろ=取材・文 / interview & text by Chihiro Mizuno
KEN=写真 /photography by KEN 
※写真はイメージです。本文の内容とは関係ありません。 photo is an image. They are not related to the content of the text.

今日はクリスマス。
外に出れば至る所でツリーやイルミネーションが光っている。
大人数向けのケーキやチキンが売られ、
クリスマスを楽しめる人たちと比較させられるような気持ちにもなる。

「クリスマスは何か予定あるの?私はぼっちやねん」
モモとのそんな会話を思い出した。
少し前に送ったプレゼントは喜んでくれただろうか。
と言っても、微々たるものだ。

彼女は今日どんな1日を過ごしたのだろう。
モモの周りにはたくさんの人がいるように見える。

医者、看護師、ワーカー、ヘルパー…全て支援者として役割を持っている人だ。そうした人たちから見れば、今のモモに必要な人は「揃っている」と見えるかもしれない。
バス停で一緒にバスを待つ間、「今1番困ってると思うのはどんなこと?」とモモに聞いてみた。
「話し相手がおらん」と彼女は答えた。
予想外の答えだった。その時モモの身には彼女が傷つくのではないかと思うことが起きていたし、彼女の経歴を聞けば、そうした話がまず出てくるのかと思っていたからだ。
私はモモのことを知りたくてたくさんの質問をした。
細かく何度も確認しながら尋ねる私を面倒くさがることなく、時には嬉しそうな表情も見せながら答えてくれた。

記憶力が良いようで覚えている細かい数字まで話してくれることもあったが、自分の身にどんなことが起きているのかを捉えたり、出来事を言語化するのは苦手なようだった。
私もできるだけモモに伝わりやすくなるように、
簡単な言葉を使い、文章が長くならないように気をつけた。
処方薬の話が出た時、
少ししか飲んでいないというモモに私は、
「1、2種類くらい?」と聞いた。
「うん!」とモモは言う。
それなのに、その後も聞いていると漢方薬も処方されていると言うし、あの薬もこの薬も飲んでいるという話が出てきた。
その時によって答えが変わってしまうのはなぜだろう?
ああ、もしかしたら、
相手に合わせて答えているのかもしれないなと思った。
警戒することなく、相手に合わせて素直に答えるその姿は、
懐っこいという印象を与えた。

「毎日何かがしんどい。
何て言ったらいいかわからないけどつらい。
眠れなくていつも夜からずっと起きている。」

これが彼女の今の悩みだ。

モモが両親と暮らしていたのは小学2年生まで。
両親が離婚し、母親は入院した。
父親に育てられることになったが、それも長くは続かなかった。

父親と一緒に住んでいた頃、小学生のモモは「深夜徘徊」をよくしていた。22時くらいに家を抜け出して近くの公園に行き、そこに来ていた犬と遊ぶ。

その頃、母親がいないことを疑問に思いながらもその気持ちを家族に話すことができず、家にいることがつらいと感じたモモは夜の公園に出掛けていたようだ。

「それからこんなエピソードもあったんだ!」と楽しそうにしていたが、友達がほしかったモモは公園にいた犬の飼い主の女性を家に招き入れ、親がいない時間にその女性から学校の宿題を教えてもらっていたとも話していた。
そうした行動から家族が面倒を見切れなくなり、
施設に入ることになったとモモは言った。
父親と祖父母から児童養護施設に預けられ、その後も里親の家や障害者支援施設で暮らし、精神科に長く入院していたこともあった。 

モモは人間関係が苦手だとも感じていた。
人との関わりが難しくて、ずっと一緒にいる人たちだと喧嘩したら気まずくなってしまう。集団生活を送ることは難しかったようだ。
施設で暮らしていた頃はイライラしてモノにすぐ当たってしまうことも多く、そうしたことが長期入院の要因にもなっていた。

「そんなにイライラしてしまうなら頭でも調べてもらおう。病院行こう!」と施設職員の人に言われ、ある日全て荷物も準備して病院に向かうことになった。

「頭調べるだけなのになんで服も詰めて行くんだろう?」と思いながら病院に行くと「入院です」と言われ、ここから突然にモモの入院生活が始まる。
病院から出てこられたのはその4年後だった。

なぜそんなにも長い間入院する必要があったのか。
もしかしたら、
退院する先を見つけられなかったのかもしれないとも思った。

モモの懐っこさを感じるエピソードは他にもある。
一緒にバスに乗っていた時、1番後ろの席に座っているはずなのに、真隣から運転手のアナウンスが聞こえてきた。不思議に思ってキョロキョロする私を見てモモが笑っている。
あ!モモが運転手のモノマネをしている声だったんだ!
家で練習でもしていたのだろうか、
見分けがつかないほどそっくりなモノマネだった。

とにかくよく笑い、ユーモアにも溢れ、
よく喋り、素直な受け答えをしてくれる。
でもそうしたところを利用され、
トラブルに巻き込まれているところもあり、
私はモモに会いに行ったのだった。

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