彼女は高校生の頃から、
話を聞いてくれる人が欲しくて男性に声をかけていた。
幸い当時は制服を着ていたため、ホテルに連れて行かれたことはなかったが、寂しさから知らない男性と過ごすことが多かったと教えてくれた。
そんな日々を過ごしている彼女はある日、
「待ち合わせですか?」「話しませんか。」と、
40代くらいの男性から声をかけられた。
「暇だからここにいます」と答えると、
その男性からご飯に誘われた。
「まだ時間がある?」と聞かれ、車に乗せられそのまま初めて会った男性の家に行くことになった。
部屋に1時間ぐらいいたが、「ここじゃ暇でしょ?」と突然、目隠しをされ、車に乗せられた。
どれくらい時間が経ったのか、わからない。
車で移動し、着いた場所はホテルだった。
目を開けると、何かに繋がれていた。
ホテルについて1時間くらいすると、男性の友人なのか、1人の男性が部屋に来た。
「喉乾いたでしょ」と飲み物を飲まされて、気づいたら彼女は寝てしまった。
「疲れてしまったし、もうどうでもいいかなと思って着いて行っちゃって。ホテルではたぶん性行為されてしまったと思う。
あまり覚えていないけど2日間くらい過ごした。結局、男の人が増えて3人になっていた。
その間に2回くらい何かを飲まされて。」
気持ちが悪くて、目が覚めても恐怖を感じて、
抵抗できず、逃げる機会をひたすら待つしかなかった。
そして、男性たちが酒盛りをしている隙にやっとの思いでホテルから逃げることができた。
「警察は怖くて相談することができない」と、
bondにメールを送ってくれた。
どうして危険な目に遭っても男性に声をかけることをやめられないのか。男性の家から出させてもらえなかったり、
写真や動画を撮らせるよう脅されたこともあったと言う。
彼女が怖い思いをするのも、苦しい思いをするのも、
私は止めたかった。
本来、声をかけなければ味合わなくていい恐怖を、
どうしても止めたかった。
そう思っていた時、彼女はこう呟いた。
「危ない目に遭っても家よりはマシ。
死んじゃいたいからいい。殺してほしい」
傷付くことが分かっているのにやめられない。
私は、彼女にとってこれが自傷行為なのだと思った。
「これって自傷に似てるものなのかな」
と彼女に問いかけると、彼女は小さく頷いた。
彼女は逃げ場を求めて男性に着いて行く。
寂しさや苦しみから逃れるために、彼女は必死だった。
彼女は男性とご飯を食べている時は寂しさが満たされると教えてくれた。
でも、体を触られるのは嫌だと。
彼女に向けられているのは性欲を満たす為の優しさだと思う。それに気づかない彼女の純粋さに、私は胸が痛かった。
彼女は温かな優しさを求めているはずなのに、
向けられるのは偽りの優しさだった。
実際にODをして、
私たちにメールを送ってくれることもあった。
彼女は市販薬を1度に100錠くらいの量を飲むと教えてくれた。
洗剤も飲んでいると。
「まいにち、なんか市販薬でたくさん飲んじゃってる。
もう消えちゃいたい」
「お母さんやお父さんがいうよりに、もうはやく死んだ方がいいんじゃないかな。あの時ちゃんと終わらせておけばこんな苦しむことなかったのかなって。
知らない人のお家に何回も行ってるけど、もうその時、殺してくれた方がよかったのかなって。いっぱい考えちゃう」
彼女は小学生の頃から両親からの虐待を受けていた。
寂しさや苦しさでいっぱいになった彼女は男性に温もりを求めるようになった。
やがて彼女は人生を終わらせたくて、
たくさんの薬を飲むようになってしまった。
死を待ち望む彼女から、死を遠ざけたかった。
彼女はいつも自分を責めていた。
「私がはやく誰にもばれずに、きれいにいなくなったらみんなが幸せになる。だからもうちゃんと死ななきゃっておもう」
彼女は自分が死ぬことが、
周りを幸せにするのだと感じていたのだ。
生きている罪悪感。
そんなものは抱かなくていいはずなのだと思った。
私は彼女がもし命を絶ってしまったら酷く悲しい。
死ななきゃいけない命なんてないと、
どうしても伝えたかった。
「でもまた話したい。って思いもあるの」。
文末にはそう綴られていた。
彼女が昼間の居場所に来てくれた時、ヘアセットをする機会があった。素敵な三つ編み姿で、微笑みながら女の子と談笑をしている姿。
居場所に来てくれていた女の子から可愛いと言われ、
照れつつも嬉しそうな笑顔。
きっとこの場所では、何にも怯えず、本来の自分の姿で笑えているんじゃないか。自分の居場所だと思ってくれているんじゃないかと私は想像した。
お話を聞かせてくれている途中、虐待の経験や男性から受けた数々の経験を思い出して涙を流していた彼女。
彼女はこんなにも素敵な顔で笑える。
私の目には、彼女の笑顔が純粋な子供の顔のように映った。
彼女が明日を望むために、何ができるのだろうか。
過去は変えられないけれど、
彼女が心の底から笑って過ごせるようになる未来を、
私は切に願う。
亜吏 / Ari
成蹊大学経営学部卒業。在学時にニュース番組にてBONDプロジェクトを知り、サポートメンバーとして活動。卒業後、コアメンバーとして活動に携わっている。
橘ジュン=校正 / Content Editor by Jun Tachibana KEN=写真 /photography by KEN
※写真はイメージです。本文の内容とは関係ありません。 photo is an image. They are not related to the content of the text.