2024-10-01

私を見つけて #りりちゃんはごくちゅうです

「頂き女子りりちゃん」こと真衣被告。
歌舞伎町の片隅で、すれ違ってしまった女の子。
出会っていたかもしれない彼女が、なぜこのような事件を起こしてしまったのか。VOICES編集長である橘ジュンは、面会を希望する手紙を送った。

2024.10/1 橘ジュン=取材・文 / interview & text by Jun Tachibana
※こちらの取材内容は事前に本人の掲載許可を得ています。The content of this interview has been approved for publication in advance.

「頂き女子りりちゃん」こと真衣被告は2023年8月、
新宿歌舞伎町で逮捕される。
恋愛詐欺のマニュアルを販売し、自身も男性の好意につけ込み計約1億5500万円をだまし取ったとして、詐欺などの罪に問われ、懲役9年、罰金800万円の判決を言い渡された。
事件は愛知県で起きたため愛知県警に身柄を拘束され、名古屋拘置所で過ごしている。
逮捕された際、真衣被告は捜査員に
「捕まえてくれてありがとう」と告げたと言われている。

どのような心境で、この言葉が出てきたのか。

真衣被告が一審の時からXで心の声を発信している
「ごくちゅうにっき」。
知り合いの女の子から「文章が魅力的」とすすめられて、私も時々読んでいた。思いのまま感じるままを書き連ねた手記は、真衣被告と一度も会ったことがないのに、会っていたかのような不思議な感覚を呼び起こした。

歌舞伎町の片隅で、
トー横界隈と呼ばれる広場で、
新宿駅アルタ前の交差点で、
声をかけたいと思いつつも声をかけられず、
すれ違ってしまった女の子。
出会っていたかもしれない彼女が、
なぜこのような事件を起こしてしまったのか。
真衣被告のことが知りたくなった。

私は「VOICES」を数冊を送り、面会を希望する手紙を書いた。

数週間後、真衣被告から返事が届いた。ありがたいことに面会を受け入れてくれた。
面会当日は拘置所の待合室でしばらく待った。
面会時間は30分しかないので、真衣被告本人に聞きたいことをノートにメモしておいた。

「世界に期待するのをやめた日」のこと、
トー横界隈に集う若者たちのこと、居場所、
自分の存在意義について、そして、
警察に対して「捕まえてくれてありがとう」と言った理由。
それらについて話を聞かせてほしいと思った。

起訴された被告人の場合、面会は1日1人しかできないため、午前8時12分に受付を済ませた。
真衣にも事前に「朝一で面会に行く」と、手紙で伝えていた。
私の面会順番受付票は7番で、ルール的には問題はないはずだった。しかし1時間ほど経っても呼ばれない。
しばらくして「面会番号7番の方、本人が入浴中です、しばらくお待ちください」と、アナウンスがあった。
実際に面会ができたのは、10時17分からだった。

真衣被告が面会室に入ってきた。髪の毛が濡れていて、本人も「髪の毛びしょびしょですー。 」って笑っていた。
25歳の彼女は、私にはとても幼く映った。

ここから先、被告人としてではなく「真衣」と表記する。

橘:体調はどうですか?

真衣:元気ですー。依存が強かったから留置所では薬がもらえなかったけど、ここでは1日4回薬をもらって飲んでて。逮捕される前は精神を落ち着かせたくて、爆発させたいときにOD(薬物過剰摂取)してたんだけど、効かなくなった。
リストカットは私、痛いのは怖いから、切る前に痛みを麻痺させるためにODしてから切ったり。
ずっと朝ホス(朝のホストクラブ)行こうよーって友達に誘われて、それが20歳の時。行ってからハマっちゃって、ラブホに泊まりながら歌舞伎町にいた。

橘:トー横には出入りしていたの?

真衣:トー横には特に関わってないかな。通り過ぎる場所。
あぁ、ええー。んー、でも、1回パキってる(薬物などでハイな状態)時に10人くらいの若い男女が輪になって固まっていて、
『ちょっと仲間に入れてよーん。
輪になって何やってるの? まぜて』
そしたら駐車場のトイレ教えてくれた。いいなって思った。
この子たちと話してみたいなって今なら思う。

橘:世界に期待するのをやめた日のこと、聞かせてくれるかな?

真衣:世界に期待しなくなったのは中2で、大人に期待するのをやめたのは中3の頃。寒くもなかったし、暑くもなかった時だったと思う。ガチで父親に殺されそうになって、110番したの。
「父親から助けて欲しい」って、泣いて電話かけた。
警察が来てくれたんだけど、私は殺されるって思うほど怖かったのに、親子喧嘩って思われたみたい。
娘に暴力振るうのは悪いことなのに。
悪いことだって認めてほしかった。逮捕されて罰を受けさせてくれると思ったから警察を呼んだのに。
警察が来てくれたことでホッとしちゃって。
私、人の前だとヘラヘラしちゃう癖みたいなところがあって、深刻さが伝わらなかったのかな。
よくある事なんだろうけど、警察はなんで何もしてくれないの?おかしいよ、世界狂ってる、頼れない世界だなって失望した。

彼女が父親に殺されかけたときに助けを求めても、
警察に「親子喧嘩」で片付けられてしまった。
それは彼女にとって、大人への大きな失望であり、家族も安心できる場所ではなかったのだろう。
彼女の手記には「家族4人で何処かに出掛けた記憶も、仲良く会話した記憶も、仲良くご飯を食べた記憶も、何もありません」と書かれていた。

真衣:中学校でもバイ菌扱いされて、保健室に行ってもダメで、ずっと1人。
友達もいなかったし、誰かと繋がりたいと思っていた。
当時の地元の駅付近に1人で座っていたら、 20代の男の人から声をかけられて、車の中に連れて行かれて性行為された。 こんなことあるのはわかっていたけど、初めてだったから衝撃だった。
周りの大人に猛烈にかまってほしい、自分のことを知ってほしいと思って、 学校の先生に「大人の人とSEXした」って言ったら、警察に行って、その男の人は逮捕された。
でも、『何で私のこと何もしてくれないんだろう?』って、おかしいと思った。
それから学校にすすめられて、ママの車で児相に行った。
ママは男の人とラブラブしてた頃で、パパとママはすごく仲悪くて寂しかっただろうから悪い事ではないんだけど、 ママはママじゃなくて『女の人』って感じで、ショックだったし、モヤモヤした。そのママと児相に行ったけれど、
児相のおばさんは仕事のために話を聞いてるだけって感じがして、敵にみえた。
私のことを見てくれてる感じがしなかったし、受け入れてくれている感じはしなかった。
一時的に保護所に入ったとしても何も変わらないだろうし、
どこにいてもダメなんだって、救われるって思えないから、終わりって思った。

「終わり」。

そう思うほど、家族や大人に絶望した彼女が家や学校以外の居場所を求めるのもうなずける。ネット上で、夜の繁華街で、自分の存在意義や居られる場所を求めて彷徨う日々。

手記より――『イヤがられて、きもちわるがられて、ずっとマイナスな人間だったから、自分とSEXして、相手が喜んでくれることで自分のマイナスを埋められる感じがした。すごくうれしかった。自分が求められていると思えて、とても満たされた』 。

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