2024-09-01

記憶の蓋が開く時

“蓋がある方がいいの。自分を守るためのものだもん。
私が「わたし」を保つためにものすごく大事な武器なんだよ。”

2024.9/1 あい=文 / text by Ai
KEN=写真 /photography by KEN 
※写真はイメージです。本文の内容とは関係ありません。 photo is an image. They are not related to the content of the text.

16才の建国記念日の日に私は処女を売った。
私の処女の値段は「2万円」と「チーズケーキ」だった。

私は両親と3人の下の兄弟がいる6人家族。
小さい頃から親はお金ないことで困ってて、喧嘩ばかりで落ち着かず、家にいても居心地が悪かった。
高校は私立の小中高一貫でバイトは禁止。
先生には内緒で飲食店でバイトをしていたけれど、先生にバレるのが怖くてうまく調整していた。
毎月の給料は、高校に行く定期券代、ご飯代、スマホ代であっという間に消えてしまい、自由に使えるお金は限られていた。

ご飯代を浮かせるために弁当を持って行くこともあったけど、家の冷蔵庫にはだいぶ期限が過ぎた物ばかり。だからスーパーの見切り品で一番安かった「いわしのハンバーグ」を毎日入れていた。
他におかずを何品も入れれるわけではないから、みんなと一緒に食べるには、なんだか恥ずかしいなって思ってた。
そのうち弁当は作らなくなって、
朝コンビニで菓子パンやおにぎりを買って持って行っていた。

当時、一食に使えるのは300円くらい。
ご飯を食べても足りなくて、いつもお腹が満たされることはなかった。
給料日前とかはご飯を買うお金がなくて、親に「すみません」と、謝ってお金をもらっていたけれど、毎回ため息つかれてしまって、言いにくかったし、両親が喧嘩をするきっかけを作ってしまっているような気がして心が痛かった。

仲の良かった友達は小学校から通ってる子が多くて、遊ぶ時にお金のことを気にすることなく、毎週土日のどちらかは遊ぶ予定を立てていて、そんな環境の友達が羨ましかった。
バイトのない時は家にいても苦しいから、家から逃げ出す口実で参加していたけれど、遊ぶお金が1000円過ぎちゃうと定期代とかが足りなくなってしまうので、私はお金を使うことを拒んでいた。
だから、みんなと遊ぶと毎回お金が足りなくて、みんなが行きたいところに行けなくなって、迷惑をかけてしまった。それが嫌で、弟たちの面倒見なきゃならないからって、嘘をついて断ることもあった。

そんなある日、友達から遊園地に誘われた。どうしても一緒に行きかった。みんなと過ごしづらくならないためにも、同じ思い出を作りたかった。
その日の学校の帰り、親に遊園地代を頼むのは苦しいなーって、モヤモヤしながら駅の構内をぼーっとフラフラしていた。

公衆電話に貼ってある薄いQRコードがふと目に入った。遊園地に行くお金がほしい気持ちしか頭になかったので、スマホで読み取ってみた。
QRコードの下に一緒に『お金に困っている子!高額のお金もらえるよ!』みたいなことが書いてあった。シールはかなりボロボロで少し破けていて、いつ貼ったの?って感じだった。
繋がるとも思ってなかったけれど、QRは読み取ることが出来て、メールアドレスと本文にいくつかの質問が表示された。
書いてある質問に回答して、住んでいる地域を白紙に大きく書いて、手に持って自撮りしたのをそのアドレスに送るだけ。
翌日には返信が来て、42歳のおじさんと繋がった。
会う日までそのおじさんとメールでやり取りした。

最近ネットで調べて知ったけど、
当時何も知らずにしてたことは「援デリ」だった。
おじさんと繋げてくれた中の人は誰だったんだろう…。
それは今もわからない。

繋がったおじさんには今まで1度も経験していないことを伝えて、嫌がられてしまわないように「楽しみです」って、何度も言った。

でも本心は違った。本当は全然楽しみじゃなかったし、楽しいわけない。おじさんって誰?って感じだったし、出来るなら会う日が来る前に遊園地の話がなくなってほしいって、ずっと願っていた。

それなのに予定の日は迫っていた。
『怖くない、怖くない!遊園地のお金をもらうだけ。あの先生は確か42歳で、おじさんも同じ42歳ってことは、先生と同い年だから優しいに決まってる!』って、言い聞かせながら、授業中にそんなふうにぐるぐる考えていた。

約束した日の前日になった。おじさんからメールがきた。
「明日何するか分かっているよね?
ただ遊ぶんじゃないんだよ」

一気に現実を突きつけられた気がして怖くなってカラダが震えた。今日までおじさんの機嫌を伺って、本文に楽しそうな絵文字付けたり、楽しみって伝えてたけど私何か間違えたことしちゃったかな…。

ううん、そんなことない。
行ったことない場所に行って、した事ない事をする。
お金をもらうためにしたくないことをする。
おじさんと遊ぶことなんて1ミリも考えていない。
考えるわけがない!
そんなのおじさんより私が1番分かってる!
そう思ったら、なんだかおじさんに対してイライラした。
でも、おじさんとの約束は明日だし、友達と遊園地の約束もしてるから今更、引き返せなかった。

喉の奥がツンとして、拭いても拭いても涙が出てくる。
明日を乗り越えなきゃ遊園地へ行けないのに。
おじさんのばか。
自分もほんと最悪。

次の日、結局は約束通り集合場所の最寄り駅まで向かった。
特に引き返すことはしなかったけど、足取りは重く、おじさんとの距離に近づけば近づく程に涙は大粒になった。
これまでおじさんと会ってホテルでエッチすることがぼんやりしていて、しっかり頭で考えられなかったけど、初めて会う知らない人とそんなことするの生理的に受け入れられないという自分の気持ちに気づいてしまって、すごく気持ち悪かった。
それでも受け入れなきゃならない現実に身体が対抗するかのように冷や汗出てきて足が震えていた。

道中、友達に電話して相談しようか迷ったけれど、普段からお金を気にすることない友達にはお金の悩みは理解してもらえないと思って、相談することをやめた。
ギリギリまで泣きながら、待ち合わせ場所へと向かった。

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