2024-06-01

居場所を求め続けて

私たちは、地方に住むねねに時々会いに行く。
死にたい気持ちも強いけれど、
また会おうねと約束して、
次に会うことを楽しみにしてくれる。
この日もねねが普段過ごしているという街中で待ち合わせた。
夜になれば東京でいうところの、
歌舞伎町のような街。

「ここの駐車場で泣きながら
よくbondに電話してるんだよ」
とおしえてくれた。

ねねは風俗の仕事を始めていた。
会う前日は泊まりの仕事が入り、朝方まで客といて、
その後ネットカフェで少し休んでから待ち合わせの場所にやってきたという。
別居中の両親それぞれの家を行き来していたりもするようだが、どちらも居心地の良い場所ではなく、暮らす場所が安定していないことが伝わってきた。
過去にいじめられた経験もあり、
コミュニケーションや人との関わりが苦手だと感じているねねは、昼の仕事に応募することを恐れてしまう。
コンカフェの面接も受けてはみたものの全て落ち、リスカや根性焼きの跡が見えてしまうことから、風俗でも今の店しか受からなかったと話していた。

ねねのような生活状況であれば、
公的シェルターへの入所も考えられる。
病院や役所など、子どもの頃から様々な支援者たちと繋がってきたので、相談はしていたり、状況を把握している機関もあったが、どこもどこかで壁にぶつかり、今の生活に至っていた。
ODを繰り返すねねの行動が“問題”と捉えられ、せっかく決まった居場所を失うこともあった。

“シェルターに入ったらスマホが使えないから、支えになってる友達と連絡が取れなくなっちゃう。
ママと二度と会えなくなるの?連絡も取れないの?
生活保護は親との関係を切らないといけないの?
ママに振り回されて嫌いだとも思うのに
好きな気持ちもあって苦しい。
自分の気持ちがコロコロ変わっちゃうところもあるから、1週間同じ気持ちが続いたら、
その時は役所に行ってシェルターに入りたいって言おうかな”

ねねの気持ちは瞬間瞬間で目まぐるしく変わるように見える。
彼女がなぜそう言うのか、
何かそう思う引き金があったのか、
15歳の頃から話を聞き続けてきたからわかることもあるが、強固な支援を受けようと思うと、
そうした気持ちの揺れは阻みとなってしまう。

“生保がダメなら入院しかないって言われるけど、
入院したくない。
スマホ使えない。入院費もない。
援交するしかないかな”

“昨日自殺配信しようとしてた。
削除されて終わって、結局死ねなかった“

“また切って腕がぐちゃぐちゃ。
今から東京行っていい?会いたい”

“毎日ODしてラリってる。
どうしたらやめられるの。
いつもボンドのみんなに話聞いてもらっててもやめられない自分の意思が弱いんだと思う“

“一人暮らししたいけど親の監視と支配が怖いよ。
どうしたら親から離れられるのかわからない。
私がこの世に存在しなければみんなが喜ぶのに
どうしたら死ねるのかな”

“おいでよって声かけてくれるところもあるけど、スタッフの人が優しくて居心地良くないよ。
傷つけられてる自分が好きで安心できる気持ちもあって、でも嫌でもあって、安全な場所が逆に不安になったりもする。
無条件に人に優しくされることがなかったから。
自分の中で矛盾が起きてよくわからない。
最近は自分と似た境遇の女の子と話して
「生まれてきてくれてありがとう」って言ってくれた”

“昨日ね、ママ機嫌よかったのかわかんないけど誕生日プレゼント買ってなかったねって言って一緒に買い物行ったの!
距離とったらママとちゃんと仲良くできるんだけどな。
一緒に暮らしたらほんとに苦しすぎる。なんなんだろう”

ねねにはどんな場所が必要なのか。
大きな決断ができなかったとしても、こまめな相談ができたり、安全に過ごせる場所は必要だと思う。
ぴったりの場所が見つからず、話を聞きながら考える日が続いた。

もしかしたらねねが求めている居場所は母親なのかもしれない。
母親という安心できる居場所。
居場所を求め続ける、ねね。
どうなれば安心できるだろう。

取材・文 = 水野ちひろ / Chihiro Mizuno
名古屋市出身。2010年、BONDプロジェクトの活動を知り、深く関わるために上京。
既存の支援制度からはこぼれ落ちてしまう若年女性の現状に関心を持ち、 スタッフとして活動中。業務全般を行なっている。
※写真はイメージです。本文の内容とは関係ありません。 photo is an image. They are not related to the content of the text.

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