シェルターでの暮らしを経て、彼女が一人暮らしを始めてからも環境の変化に戸惑っていた。
自分のことを自分でしなければいけない環境。
ご飯を食べる、お風呂に入るなどの日常的なことができなかった。買い物に行っても何を買っていいのか食べていいのかわからない、選べない。
今までは周りに人がいる環境だったから気にしていたけど、1人になってからはお風呂にもなかなか入れない。自分を大事にすることができなくて、
セルフネグレクトのようだった。
どんなもの食べていたっけ?と、私が問いかけて、
ようやく彼女は思い出す。
「これだったら食べられる、食べてた!」と思い出して購入していた。それでも食に興味がなく、食べたか食べてないかが分からなくなってしまう。ルーティンとして、食べたらチェックする表も用意した。
ご飯の炊き方、保存の仕方、包丁の使い方、コンロの火の付け方、家電が壊れた時の対処法、わからないことは相談してくれて、一つずつできることが増えていった。
安心できる生活に慣れてきたかなと、私も少しホッとしていた。
でも、夜中になると連絡がくる。
「急に死にたいし涙止まらないしフラバしまくって空の薬落ちてるし今日バイトできないって連絡してしまった、無理してでも頑張るってこと忘れちゃったのかな私」
「なんで私ばかり苦しいのって悔しくなる」
「つかれた」
「なんにもうまくいかない」
「死にたくなって、やり過ごすのがODとかしかなくて」
「そんなのしたって次の日響いたり気持ちは変わらないのにね」
「今だって散歩したら考えなくて済むかもって思ったけどただかなしくなるだけだった」
ふと、やってくるフラッシュバックに苦しみ、死にたい気持ちが強くなって、自分でもどうしていいのかわからないようだった。
前にも私のそばで、時が止まったかのように、身体が動かない時が何度もあった。
フラッシュバックは、過去のトラウマとなった体験と繋がりのある行動や、関わりのあることがきっかけで、突然、当時と同じような恐怖や感情が鮮明によみがえること。映像で思い出す場合と辛かった気持ちのみ思い出す場合がある。
また、動悸や息苦しさなどの身体症状が出ることもある。
彼女は夢で過去のトラウマ体験を再度体験したり、幻聴、幻覚などがよく聞こえたり見えていると教えてくれていた。
彼女は今、安全な場所にいて、暴力を受けているわけでもない。
好きなこと、楽しいこともある。
それなのに、過去に親から言われたことや、されたことに苦しんでいた。
「生きることを辞めようとするのは環境のせいじゃなくて自分のせいだと思う。
親から離れて何年も経ってて、嫌なことが起きるわけじゃないのに、自分があまりにも変わらないから。」
自分や誰かのせいにしないと過ごせないのかもしれないけど、
たくさんの時間を一緒に通り過ぎてくれたね。
今はしんどかったことを受け止めて、自分の人生を生きてくれているんだなって、私はそう感じることができたよ。ありがとう。
誰かの機嫌を伺うことなく過ごせるようになった。
悩みも父親のことや行く場所がないことではなくなった。
対人関係とか、トラウマ治療のこととか、自分自身のことで悩むことができるようになった。
わがままも言えるようになった。
こうやって変化に気付けるくらいにしんどい時間も減ってくれたんだよね。
気づいていないかも知れないけれど、あなたのできることが増えていってることで私もパワーをもらっているんだよ。
初めて相談に来てくれた日、
少しでも緊張を和らげたくて、好きな飲み物を買って渡したことがあったね。
しばらく経ってからその時のことを「すごく嬉しかった」と話してくれたね。
私が何気なくやったことなのに覚えていてくれた。
優しいな。
些細なことだったけど思いが伝わったような気がして、私も嬉しかったよ。
また一緒に、カフェオレ飲もうね。
取材・文 = 森田あすか / Asuka Morita
NPO法人BONDプロジェクトスタッフ。
家に帰りたくない気持ちを抱えながら、家出を繰り返していた高校生の頃に単行本「VOICES」と出会い、2013年より活動に携わる。現在は漂流少女たちのアドバイザーとして、女の子たちの相談を受けている。
橘ジュン=校正 / Content Editor by Jun Tachibana KEN=写真 /photography by KEN
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