“寂しいんだ。しんどいんだ。強くなりたいのになれない。
変わりたいのに変われない。“
2023.10/1 水野ちひろ=取材・文 / interview & text by Chihiro Mizuno
KEN=写真 /photography by KEN
※写真はイメージです。本文の内容とは関係ありません。 photo is an image. They are not related to the content of the text.
「普通の人でいたいから」
どうして差し伸べられる手を拒んでしまうのかと尋ねた私にその子はこう答えた。
支援を受けることが全てではないし、手を差し伸べると言うのも烏滸がましいかもしれない。
怖い思いをして、不安の中で一人で問題を抱え続けているには限界もあるだろう。その限界はもう超えているんじゃないか。それでも一人でどうにかしようと、必死でもがいているようにも、必死で守っているようにも見えていて、どうしてそうするのか、どういう気持ちがそうさせるのか、知りたかった。
彼女から届くメールはよく文字が乱れている。薬をたくさん飲んで文章が打てなくなっているのだろうと想像できるが、文字化けのような、暗号のような、一見何が書いてあるかわからない文章だけど、苦しさや助けてほしいという気持ちが表れているようにも思う。
“過去のこともこれからのことも考えたくなくて、薬とお酒を飲んだらフワフワして考えないで過ごせるから。
それに死にたいから飲んでるんだよ。
過去で一番嫌だったのは高校生の頃。
親は弟には優しかったけど、自分にはそうじゃなかった。
家に帰りたくなくて、バイトの予定を詰め詰めにして、
でもバイト代は親に取られていたし、お金と居場所を作るために援助交際もしてた…“
私たちが初めて彼女に会ったのはこの頃だ。
家族関係や学校での対人関係に悩み、苦しい、消えたい、眠れない毎日を過ごし、そうした思いをメールで届けてくれていた。
自分だって苦しんでいて大変なはずなのに、家族を壊さないように、周りに迷惑をかけないように、自分が我慢していれば周りはうまくいくからと、自分を作って生きていると言う彼女はとても気になる女の子だった。
待ち合わせ場所に行くかも迷っていたと言っていたけれど、それでも来てくれて、私たちは彼女を見つけた。
偶然駅前を歩いていた時、気になる雰囲気を纏っている黒い服を着た女の子が座っていて、待ち合わせ場所から少し離れた場所だったので、違う子かもしれないと思いながらも声をかけてみるとその子だった。
そしてその時、誕生日が近かった彼女のお祝いをした。
今年も誕生日がもうすぐやってくる。
“高校生の頃から25歳になったら死のうと思ってた。25歳は大人っていう感じ。
その頃には変わってるかなとも思ってた。でも変わってない…
高校を卒業して、すぐに同棲を始めて、最初はよかったけど、彼から殴られるようになって、
親も変わらずお金を取りに来てたし、今もその頃のことがフラッシュバックしちゃう。
自分がまともに生きられなかったからこうなったんだと思う。
自分が強かったら、弱くなかったら、嫌だって言えたのに。
それも言えなかった。怖かった。
親に何かを言ったら捨てられると思っていたし、今は縁を切っているけれど、実家に住んでいた頃はちょっとは捨てられたくないと思っていたし、捨てられたら家がなくなるということでもあったから。
同棲して殴られた時は、頼れる人がその人しかいなかった。
そういう怖い状況になると考える機能が停止してしまう。それが今もずっとある。”
DV関係にあった元彼から離れることができた時、長い時間はかかっても動く時は動くのかもしれないと思った。
環境を変え、バイトも始め、新しい一歩を踏み出したこの子を見守りたいと思っていた。
しかし、バイト先で悲しい被害を受けてしまったと彼女から聞くことになる。
バイト先の社員からお酒をたくさん飲まされて無理矢理に体の関係を持ち込まれ、望まない妊娠をしてしまっていた。