
白石被告からの手紙による返事はもらえなかった。
でも諦められなかったこともあり、面会の申し込みを手紙と電報で送った。
VOICES2冊と私の著書本を差し入れた。
判決前、白石被告のリアルな声を聞きたくて、面会の申し込みを2回ほどした。1回目は辞退すると言われて、面会は叶わなかった。今日も無理だろうな、と思いながら、待合室で待っていると、受付から面会が出来ることを伝えられた。
東京・立川拘置所の「9番面会室」。
「座間9人殺害事件」の被告が90度にお辞儀をしながら、部屋に入ってきた。
上下黒色のスエット姿で白いマスクを着けていた。
分厚いアクリル板を挟んで、白石被告が私の目の前に座った。
◎2020年12月11日午前9時~
(内容一部抜粋)
橘:10人目になりたかった女の子いるのは確かなんです。私もツイッターやってればよかったとか、そういう子がなくならない。どうしてだと思います?
白石:私より橘さんの方が分かっておられると思うのですが、悩みを抱え込む女の子多いじゃないですか。SNSに書き込んで、つけ込む男がいて、そういう世界の流れが出来上がってしまっていてなくならないと思う。
橘:女の子たちは、どうしてあなたを選んで会いに行ったんだと思う?
白石:私の理論なのですが、数打ちゃ当たる。数打てば…。
橘:1日でどのくらい声を掛けていた?
白石:1日に10人、20人、30人…くらいアプローチしていたんですかね。
橘:それは1日ずーっとやっているの?
白石:1日に数回はチェックしていました。朝起きて、ご飯食べて、風呂入って…数時間おきに行動のくぎりくぎりごとにキーワード検索して1日8回くらいはやっていた。
橘:たくさん検索してヒットすると思うんですけど、返信しようと思う子って、投稿したのがすぐとか数時間経っていることか?
白石:もう全員にアプローチしていました。
橘:話の仕方、丁寧にしていたのでしょうね。
白石:うーん。
橘:ですます調でした?
白石:基本的に丁寧に。私の性格と、経験上そういった態度をした方が心を開いてくれやすい。
昼の仕事で営業をしていたり、個人的に出会い系で女性とSNSでやりとりしていたり。
橘:女の子は男の人にいってしまうことが多い。誘い出す側、私たちからすれば加害者側の人たちですが、その人たちをどう思いますか。
白石:橘さんの行動、ネットのパトロールは大正解です。24時間受け付ける。女の子はさみしいと思った瞬間に話したい。それができたら犯罪に巻き込まれないかも。すみません、私なんかが偉そうに。
橘:一緒に死のうと誘いだそうという人、誘っている男の人たち、あなたの真似をしているかもしれないんですけど、死にたい気持ち、あなたは最後までそこは貫いていた?
白石:橘さんって結構傍聴しました?
橘:5回ほど傍聴しました。
白石:裁判でお話しした通り、内容貫いていた。
会うまでは相手の目的にずーっと合わせる。会ったらくどく。家出したいのか死にたいのか汲み取りながら話し合わせて、会って初めてくどき始める。裁判でも行った通り、誘導、操作する。
橘:私たちもSNSでやりとりするけど、リアルで会うのって時間がかかりますよね。
白石:そうですか?それは相手にメリットを出せていないからでは。私が橘さんに言うのも申し訳ないが、例えばご飯おごるよと言ったら来るし、居場所なかったらシェルターあるよとか魅力を臭わせればくる。
橘:私たちは、出来ないことは出来ないと言わないといけない。私たちの距離感でアプローチ続けて、きちんと伝えないと、裏切ることになってしまうから。
白石:そうですね。私は外見に自信が無いので、街で直接声をかけるのが苦手なんです。ネットを介してのナンパが主だった。
橘:でも顔の写真を送ったりしていたんですよね?
白石:やっぱり、向こうに信用求められ、送らないとやりとり終わっちゃうじゃないですか。
橘:再発防止は困っている女の子を見つけて、繋げる…。
白石:そうです。そういうやり方で通報のシステムをちゃんと作った方が良い。「殺して上げます」などつぶやいた瞬間から凍結するとか対策したら。
橘:凍結してもまた復活したり、同じ事ぐるぐる繰り返し、しかもDMに行ったり。見つからなくなってしまいますよね。
白石:ああ、詳しくはLINE通話でとかですよね。(再発防止は)つぶやいた瞬間から止められないと無理でしょうね。
橘さんの活動みたいな、コンビニとか風俗店とかにパンフレットを置いて、メールやLINEで相談受ける。そうじゃないと犯罪はなくならない。
橘:今、自殺率上がってしまっていて。「死にたい」「消えたい」っていう言葉は悩んでいる背景とか伝わってしまう。下心ある大人たちもいるので「繋がらないで!」と、必死に止めてます。
白石:女の子の側からすると、BONDより男性の口説きが甘く聞こえるんじゃないかな。
橘:その大人たちには目的があるから下心があるから。私たちが対応している女の子は被害者に遭われてしまった方と近かったんだと思う。死にたい、消えたい、しんどい、居場所がない…。
白石:どっちかというと疲れたという人。はい、標的とみなしていた可能性としては近いと思う。
橘:家出したい子も声かけていた?
白石:はい、声かけて。
橘:街で?
白石:街ではかけてない。いろいろ言われているが真実はスカウト会社に所属していて、声かけて良いエリアとそうでないエリアがあって、歌舞伎町の、新人の声かけの指導をしていた。顧問料をもらっていたので指導料とかも含めて。
橘:どうして?
白石:高校出てずーっと接客業していたからじゃないですかね。1日10人と会ったら、生涯で何万何十万結果的に会うわけじゃないですか。
橘:もしその話す力が、誰かを傷つける方向ではなく、人のために使われていたら、違う未来があったのではと思ってしまう。ただし、それでも犯した罪が消えることはないですが。
男の人の相談も?
白石:ぼくスカウトマンをスカウトしていたし、男性アカウントにもいっていたし、犯行期間中も男性の話も聞いていた。
橘:あなた自身が相談するっていうのは?
白石:え?お金ないって?あー、それは思わなかったなあ…。
橘:親しくなったら困っていることを女の子は話してくれますよ。所持金が無いことも。だから一緒に考えましょうって伝えてます。
白石:そういう意味では、私みたいな男性は性犯罪に手を出しやすいかもしれないですね。強盗とか。
こうして30分間ほどの白石被告との「対決」のような面会は終わった。
終始、穏やかな表情で、受け答えは丁寧だった。物静かな印象と事件とのギャップがあまりにも大きくて、面会を終えた後は放心状態になった。
この事件が起きた時、「被害に遭ったのはあの子なんかじゃないか」と、
何人もの顔が頭をよぎった。
あの日からずっと私の心の中を支配していた思いがあった。
「なぜ事件は起きたのか」、
「なぜ白石被告を選んで会おうと思ったのか」。
その答えを探るべく裁判を傍聴したが、結局わからず、なおのこと本人から聞きたい気持ちが強くなった。
SNSには今も、心の弱った女性たちを利用しようとする人たちが存在する。
面会の中で本人は「そうした女性を自覚的に狙っていた」と話し、SNSの一部にそういう世界ができあがっていると認めた。そして、それは残念ながら今も続いている現実でもある。
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今でも「死にたい」という声が私たちのもとに届きます。けれど、その声は確かに「SOS」だと私たちは知っています。
この記事は加害者のためにあるのではなく、
犠牲となった方と同じように苦しんでいる人の命を守るために記すものです。
改めて、被害に遭われた方々とご遺族に心よりお悔やみを申し上げます。
取材・文 = 橘 ジュン/ Jun Tachibana
ルポライター。18歳の頃からアウトロー的な生き方をする少女たちの取材を行う。街中で出会った女の子たちのリアルな声を聞いて伝え、現在も10代20代の生きづらさを抱える女の子たちを支えるために活動を続けている。
NPO法人BONDプロジェクト代表。
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