2023-12-31

寂しさは笑顔の中にある

ホストクラブには「売り掛け」と呼ばれている制度があって、
飲み物を注文して高額になった飲食の代金を返済期日を決めて猶予してもらって、あとから支払う方法があって、
彼の店の掛けが15万円ほどある。
彼は家にいる時は話しかけてもくれないし、いない存在として扱われている感じがして優しくはないけれど、
店に行けば優しいから、頑張ろうって思っちゃう。

いつも夕方になると部屋を出て、
朝まで歌舞伎の街のどこかにいる。
路上にいるか風俗して仕事しているか、彼の店で飲んでいるか。
こういう生活はつらくないのかって?
彼のような存在がいないと自分は頑張れないのかもしれない。
実家に帰っても引きこもりになって、何に対しても頑張れなくなるだろうし、生きてる実感も湧かないし、生きる価値すら見出せないと思うから。

将来の夢?特に何もないかな。
あ、でも自分で作ったオムライスを食べたいな。親がご飯作ってくれなかったから自分で冷蔵庫にあるものでよく作っていたし、
久しぶりにオムライスが食べたい。

他にやりたいこともないし、今のままでいい。
今のこの状態を続けられるだけ続けられるなら、
それでいいかな。

不安定な暮らしで体調が優れない日だってあるし、
シャワーを浴びるのもめんどくさくなるくらい、動けないほど疲れてしまう日もある。
だけど、落ち着ける場所はどこにもない。もしかしたら、自分でもゆっくりすることを望んでいないのかもね。

今の風俗は歌舞伎町を歩いてたらその店の人にスカウトされて
「行く場所がないなら働いていいよ」って声かけられて働くようになった。
パパ活して、風俗で働いて、眠ったり休む時間は2時間くらい。
働いたお金はホストの店で使い果たしてしまうか、カケを払ったりしてお金がなくて、疲れて休みたいのに、ネカフェ代が払えなくて入店出来ないことも度々あるけどね。

ーーそんな時はどうしてるの?

ー何して過ごしてるかって?どこにも行く場所ないし、一人で路上にいるしかないから、立ったり座ったりして過ごしている。

話を聞きながら、そんな彼女の姿を想像してみた。
ついさっきまで煌びやかな店内でホストたちに囲まれて、幸せすら感じていたはずだ。
お金を使い果たしてしまったら、自分の休む場所すら見つけられない彼女のことを想像し、私は切なくなった。

お金を使っているその時間だけは「私、こんなことだってできるんだ」って高揚感で満たされていただろう。しかし、お金がなくなってしまえば街の中で独りきり佇んでいる彼女がいる。
あの夢のような時間は何だったのか。
そんな余韻に浸ることもできないくらい、
厳しくて冷たい現実だけがある。
自分には何も残っていないという事実だけが突きつけられる。

「後悔しても遅いけど、何でお金がないのかな。こんな時に助けてくれる人もいないしなー。お金を作らなきゃって思って、咄嗟にSNSでパパ活の募集をかけちゃうんだ」

そんな日々を送ることを選んでしまうと話してくれた。
決して多くを語るわけではないのに、彼女が発する言葉には「これが私なの」という意思を感じさせる。
誰かに期待したり、何かを求めたり、
自分が少しでもラクになりたいとか、生活を安定させたいとか、
そんなことは望んでいないのかもとさえ思う。

たとえ偽りだとしても、ホストがいるその世界が輝いてみえる彼女は、光が輝くほど影も濃くなるように、
自分が犠牲になってもいいと思って諦めてしまっているのか。
いや、違う。きっと彼女は欲しているに違いない。

なにを?
なにかを。
だれを?
だれかを。

傷つき疲れ切った身体を休める場所と温もりを。
探しているから、彷徨い続けているのだと思う。

歌舞伎の街からあなたの姿が消えた時、
やっとあなただけの居場所が見つかったんだねって、
そう私は思いたい。

取材・文 = 橘 ジュン/ Jun Tachibana
ルポライター。18歳の頃からアウトロー的な生き方をする少女たちの取材を行う。街中で出会った女の子たちのリアルな声を聞いて伝え、現在も10代20代の生きづらさを抱える女の子たちを支えるために活動を続けている。
NPO法人BONDプロジェクト代表。
※写真はイメージです。本文の内容とは関係ありません。 photo is an image. They are not related to the content of the text.

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