
この夜、彼女は街頭で客を取ることなく帰宅した。
何度も頭を下げ、お礼を言う姿は丁寧でもあり、心配な気持ちにもなった。ずっと履き続けてきたのであろう厚底の靴はかかとが随分とすり減り、歩きづらそうな角度になっていた。
その後、彼女は無事に支援へと繋がった。
後日、彼女とまた会うことができた。電車で一緒に移動しながらそこそこに長い時間を過ごした。
街頭で出会ったあの日は差し迫った生活のことを話すだけでいっぱいだったけれど、この日は落ち着いてゆっくり話すことができた。家族のこと、友達のこと、誰かに話しかけるのが苦手だという自分の性格のこと。
親のことは大好きだけど、自分のことをわかってくれる人たちではなくて、いつも自分よりも親の方が大変そうで、自分がちゃんとできないからダメなんだと思い続けてきたという。
話を聞いていると「それは虐待になるんじゃないか」と思うような内容も、
「虐待ではないと思うんだけど」と前置きをして話す。
親を責められない気持ちと、
自分を責めてしまう気持ちが絡み合っているようにも見えた。
幼い頃から喧嘩の絶えない両親の前で、
親同士の仲が悪くならないように、彼女はいつも元気な振る舞いを見せていた。
離れて暮らすようになってからも、お金に困っていると親から連絡があれば、働いて貯めたお金を全て渡したこともあった。それでは彼女の方が大変になってしまうのではないか?と思わずつっこみたくなるが、彼女が話す一つひとつのエピソードには「離れていてもいつも親のことを心配していている」という気持ちがにじんでいた。
彼女の暮らしは安定することはなく、
たった一人で生活を守るために心をすり減らす日々を送っていた。
危険と隣り合わせの仕事で受けた心の傷は「いなくなってしまいたい」と絶望を反芻させた。
本当は苦しいはずなのに、助けてと誰かにこぼしてもよかったはずなのに、いつも「自分がダメだから」と抱えてしまい、一人で生き延びてきた。
その姿から彼女の命の声が聞こえてくるように思えた。
自分から連絡をしたり話しかけることは少ないという彼女も、問いかければたくさん話してくれる。
こんなに大変な状況にある彼女に、
優しい視点で気づいた人はいなかったのだろうか。
助け舟を出す大人はいなかったのだろうか。
この街では事件や事故が日常のように起こる。
「路上売春」や「悪質ホスト問題」などのニュースが取り沙汰され、
居場所や繋がりを求める子どもたちがこの街を目指す。
メイン通りではきらびやかな衣装を着た呼び込みのキャスト達が花道を作り、その傍らで酒盛りをしているグループや、未成年を搾取する大人たちが行き交う。ホテル街には路上に立っている女の子が多く、品定めをするようにゆっくりと歩いている男性たちの姿もある。そしてそんなこの街は観光地と化している。
警備員や警察のパトロールは、いったい何を守っているのだろう。
起こりすぎる出来事の中で、目立つものに目を奪われ、
通り過ぎてしまいそうになる。
あの夜、彼女が流したあの涙を、ここに記しておきたい。
取材・文 = 水野ちひろ / Chihiro Mizuno
名古屋市出身。2010年、BONDプロジェクトの活動を知り、深く関わるために上京。
既存の支援制度からはこぼれ落ちてしまう若年女性の現状に関心を持ち、 スタッフとして活動中。業務全般を行なっている。
※写真はイメージです。本文の内容とは関係ありません。 photo is an image. They are not related to the content of the text.







































































