2026-06-29

Heart Station -居場所-

“あったかい居場所がほしいだけ。ずーっと眠れる場所。
どこにも行かないで。私を守って。 “

匿名の言葉に触れた私たちが、何を感じ、何を考え、どのように立ち止まることができるのか。
その過程を記録していく『RIM magazine』。

Published in RIM magazine vol.01「Heart Station – 居場所 -」
28 March 2026



vol.01に収録したコラムの中から、一篇を紹介する。
新宿・歌舞伎町の「トー横界隈」を居場所のひとつとして過ごしてきた20代の女の子。
そこには危うさも、暴力も、不安もある。
それでも彼女は、同じように街を彷徨う少年少女たちの姿に安心し、いとおしさを感じる、と語ってくれていた。


2026.6/23 橘ジュン=取材・文 / interview & text by Jun Tachibana
illustration by Akari Maru (rhythmos)
『RIM magazine vol.01「Heart Station ― 居場所 ―」』より一部掲載







新宿東宝ビルの横にある広場付近では、少年少女たちが集まってくる。
彼らは家庭内での虐待や学校でのトラブルなど、さまざまな理由から生きづらさを感じていて、2019年頃からSNSを通じて来るようになった。
暴力や性被害、さらには自殺や殺人事件も発生している。
また市販薬のOD、処方薬の睡眠導入剤をODで青く染まった舌や唇を見せ合うなど、危険な行為が社会問題として浮上している。

新宿歌舞伎町に「トー横界隈」と呼ばれる場所がある。
そこを自分の居場所という20代の女性がいる。
なぜ行きたくなるのかを尋ねると「自分の心が不安定な時に誰かと話したくなる」と答えてくれた。
はじめから躊躇することもなく、界隈の輪の中に入って、
そこに集う人たちの様子を眺めていたようだ。

年齢は気にせず、あだ名しか知らない関係。
ルールがなくて自由な雰囲気が心地良かった。

女の子たちはパパ活、立ちんぼ、案件などでいなくなる時が多く、輪の中を仕切っている男性から「パパ活やらないの?」と、勧められたりしたこともある。

その男性は女の子たちからお金をもらう代わりに界隈の治安維持する役割のようだった。

薬を売っている女性がいたり、消えたと噂していたその子が警察に捕まっていたり、金銭トラブルで揉めていた子が自分のインスタに「やばい、逃げなきゃ」と、呟いていたり、危ないこともあるけれど、あそこに集まる子たちが作っている空間に身を置きたくなると話してくれた。

「ODとかリスカをしてる子たちのような自分の状態と近い子たちを見ているだけで安心する。
リスカしていたら、その子の傷の手当てをしてあげたり、
パキってフラフラしている子には
『大丈夫?一緒にいるよ』って声をかけたくなる」

トー横界隈には、「ここに来れば変われるかもしれない」との思いを抱いて全国から訪れる。
子どもたちだけでなく、20代の大人たちも集まる傾向にある。

「なんでここにいるの?」と聞くと
「死にたいけど死ねないから」と、いう子もいる。
20代の彼女も、
「なんとなく生きている」と、話す女の子がいたり、
高校生の子が「家に帰っても親もいない」と聞けば、
自分もそうだったなと思って、心配だけど共感もするし、安心したりできるという。

「予測がつかないことだらけ。カバンがない、
お財布がないって何かしら問題が起こる。
男の子たちが体を触ってくるから、女の子たちが心配。
そういうのは嫌だけど、ここで過ごしている彼女たちが羨ましくもなる。

自分ができないことをしているから。

10代の頃にそういう居場所が欲しかった。

今の私は隠れてやっていること、例えば足を切る、腕を切るとか、ODとか。
自分にとってはダメなことなのに、あの子たちは周りの目を気にせず、
見えるところで切ったり、のんだりしていて。
戻れないけど、きっと自分は中学生の頃の自分に戻りたいのかも」

どうなったら界隈から出ようと思えるのだろうか。
居場所を探し求める彼女は夜の街で何かを見つけられるのだろうか。

「自分のできる事、必要としてもらえることが見つかれば、
そこから離れられるのかな。
自分のやりたいことを探しているんだと思う。

ずっとここにいるとは思っていないし、いつかはここから離れなきゃ、
必要としない自分にならなきゃって思っているから愛おしく感じるのかな。
同じ場所にはいられないってことくらい、わかってる」

ずっと居続けるための場所というより、
過ぎ去ってもいい、
立ち止まってもいい場所を「こころの駅」というなら、

その言葉通り、たぶん彼女にとってトー横界隈は居場所の一つなのかもしれない。

▼RIM magazineとは

RIM magazine vol.01 :Heart Station -居場所-
匿名の言葉に触れた私たちが、何を感じ、何を考え、どのように立ち止まることができるのか。
その過程を記録することを目的とした『RIM magazine』。
毎号ひとつのテーマを設定し、さまざまな言葉や表現を集める。小説、研究レポート、推論、エッセイ、詩、日記、写真、ドローイング、記録、痕跡など、形式は問わない。


橘ジュン=取材・文 / interview & text by Jun Tachibana
NPO法人BONDプロジェクト代表。ルポライター。2006年、パートナーのカメラマンKENと共に、街頭の女の子の声を伝えるフリーマガジンVOICESを創刊。これまで少女たちを中心に3,000人以上に声をかけ、聞いて、伝えつづけてきた。2009年、10代20代の生きづらさを抱える女の子を支えるNPO法人BONDプロジェクトを設立。虐待、家出、貧困など様々な困難を一人で抱えてしまう女の子に寄りそう「聴く、伝える、繋ぐ」を活動中。その日、行き場所のない今、困っている目の前の女の子のために街のアウトリーチや保護の活動も行なう。

illustration by Akari Maru (rhythmos)

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